【002】 朝の陽は西から昇る

 陽が西から昇るといったら、 笑う人は多いだろう。 葛飾区のど真ん中を流れる中川は、 やたら曲がりくねっている。 愉快な現象が楽しめる。 

 下流からでも、 上流からでもいい、 徒歩で一時間も歩いていると、 陽が進行方向の右手に行ったり、 左手に行ったする。 
 

  川面に輝く太陽は、 いのちの源泉だ。 右に左にと陽光を横目で見ながら、 散策すると面白い。 太陽だけではない、 夜の星座も、 月も同様である。 

  中川は極端な蛇行で、 鋭角にも曲っている。 方向感覚の錯覚が楽しめる場所だ。 生真面目に、 磁石など持ってくると、 愚の骨頂だ。 

 仲間や夫婦と連れ立って楽しむこともできる。 「あれっ。 太陽が逆から昇っているぞ」と指す。 これは結構楽しいものだ。 
 

 中流には奥戸橋がある。 鉄骨が剥き出しの、 ゴツゴツした橋だ。 古い。 古いから下町の味がしっかり染まっているのだ。 橋上で、 立ち止まっていると、 ジョギングするひと、 早番で出勤するひと、 さらには学生までさまざまなひとが橋にやってくる。 一日の始まりだ。 

 夜勤で帰ってくる人もいるから、 一概に断定できない。  太陽が西から昇るように、 朝の陽が一日の終わりかもしれない。 そんな雰囲気が下町にはあるのだ。
 


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