【013】 朝  顔
 下町に似合う花は何かしら。 それは朝顔だろう。 そんな夫婦連れの会話が聞こえる。 
 窓に簾(すだれ)がさがる。 朝顔が背伸びし、 庇まで這い上がっていく。 可憐な紫の花を咲かせる。 

 花弁が朝露に濡れる。 ごく自然に風情がかもしだされている。 

 朝の顔。 じっと見つめると、 花弁一つひとつに表情がある。 

 葉陰に隠れたがる子どもの顔、 ちょっとマセタ男の子のような花弁。 思春期のようなしおらしい表情をみせる乙女の朝顔。 


 軒下にはちょっとにらみを利かせた大輪の父親。 家族を優しく、 心あたたかく見守る母親の顔。 二つ粒の朝露が光る。 それは母の瞳だった。 

 簾のなかで、 家族団欒の爽やかな朝顔一家だ。 朝日と戯れる。 

   012へ  <= 100景 TOPへ  => 014へ  

穂高健一の世界トップヘ戻る

Copyright(C) 2006 Kenichi Hodaka. All right reserved.