【019】 檻 の 中
 世の中が荒んできたせいだろうか。 下町の児童公園の砂場に、 子ども用の鉄製の檻が完成した。 罪のない子供を収監するわけでもなさそうだ。 

 幼子は先刻から砂場で窮屈そうに遊ぶ。 砂遊びに飽きても、 かんたんには檻の外に出られそうにもない

 子どもから目を離した母親は、 お喋りに夢中。 この上ない安全な檻だ。 
「危ないから、 出たらだめなのよ」その一言のみですむ。 

 さっきから砂遊びに飽きた子どもはブランコに乗りたい、 滑り台で遊びたい、 熊さん、 キリンさん、 お馬さんに乗りたい。 でも、 鉄檻は乗り越えられない。 


『誘拐魔から、 幼子を守る。 安全な檻』
 発案した公園管理者は知恵者だろう。 子どもの情感などき思慮の外。 密閉、 封鎖による情緒障害などは関係ないと判断したのだろう。 

 母親はなおもわが子から目を離して屈託なくお喋り。 この上ない時間を与えてくれた檻。 最も楽しめるひと時。 檻に感謝するのみ。 


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