【054】 小さな滝
  下町の一角にはお洒落な滝がある。 知っている? 知らないよね。 人工の滝だけど、 それなりの美観があるんだ。
  岩をかたどる壁面に、 白糸の滝のように澄んだ水が落ちる。 朝夕に絶えることなく、 さらさら流れ落ちている。 昼時にはそばに滝を感じるだけで、 涼感はたっぷり。 だから、 ぼくたち若い連中には人気がある場所なのさ。
太陽の光が強くなった初夏なんか、 穴場なんだ。 これ以上ひとに知れると、 縁石に腰を降ろす場所がなくなるから、 皆で秘密にしているのさ。 地図には出ていない、 GPSでもつかめない滝だ。 
滝壺の水のなかでは、 直射の陽光がキラキラきらめく。 歩道のほうでは、 桜並木の木漏れ日が路面で、 陰陽で踊っている。 光の表情は豊かだ。 多芸な踊りだ。 調子で、 変化する。 じっと見ていても飽きないし、 愉快な気持ちにすらなれる。  時どき見かける、 滝仲間が二人やってきたぞ。 かれらもきっとこの場所で一列にならび、 一様に背中から小滝の涼を取る。 背後の水の音は耳に心地よい。 友達どうしの会話のいいBGMだ。 

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