【059】 少年サッカー
  細い路地で、 ぼくたちは毎日サッカーボールを蹴る。 この時間が一番楽しい。 将来はJリーグだ。 もっと、 その上だ。 
  独りチームだから攻撃、 防御、 すぐに入れ替わりだ。 相手にスキを与えられない。 うかうかできない。 スピードが勝負だ。 
  ぼくたちにはユニフォームなんて要らない。 グラウンドや広場がなくてもいいんだ。 狭い路地のほうが、 コントロール力がつく。  俊敏になれる。 センスだ。 
 南米の少年だって同じだ。 

  レンガ造りの家々の路地裏で、 ボールを蹴り、 上手になり、 ワールドカップのヒーローになっていく。 路地裏から出た1億円、 10億円プレーヤーは沢山いるんだ。 僕たちは木造作りの家々の路地で、 ボールを蹴る。 地球の裏側の少年プレーヤーとおなじ条件だ。 

  自転車に乗った人がくれば、 カーブでシュートだ。 まずい、 自転車の荷台カゴに入ってしまった。 これじゃあ、 バスケットボールだ。 
 さあ、 ハーフタイムは終わったぞ。 

「セイが出るね」
  隣のオバさんが二階のベランダから顔を出した。 
  これまで何度もボールで、 植木鉢をひっくり返しては怒られた。 
  もっと上手に蹴りなさいよ、 と。 内心は応援してくれているんだ。 
「へぼね、 どこ向いて蹴っているの。 それじゃあ、 どこの高校からも誘いが来ないわよ」
 と激と喝を入れる。 

  このオバさんの目標は低すぎるんだ。 ぼくたちの目標は高校サッカーじゃない、 ワールドカップなんだ。 下町の少年サッカーだって、 世界に羽ばたけるんだ。 
「夢じゃない。 実現させるんだ」
僕たちは燃えているんだ。 

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