【015】 路地裏の酒場
 私鉄駅前から、 脇道に入った路地裏には、 モツ煮込み、 焼き鳥、 大衆酒場、 お好み焼き、 割烹などが並んでいる。 路地から路地へとつづく。 

 酒飲みにはたまらないほど面白い店が多い。 間口は狭いし、 奥行きもない。 店構えには気取りなどみじんもないし、 「はいよ。 焼酎ね」と活気ある店員の声にも年季が入っている。 まさに庶民の酒場だ。 

 界隈(かいわい)の町工場が引けると、 まず工員たちが立ち寄る。 開店前から並ぶ。 だから、 いつきても満員。 客は無理に店内に入ろうとしない。 縁台で充分なのだ。 暖簾の外におかれた長椅子が客席なのだ。 

 中小銀行、 官公庁のネクタイを締めたホワイトカラーがやってくる。 仕事の話、 上司や同僚への不満ばかり。 それは一日のはけ口の場だ。 職場のストレスは家に持ち帰らない。 それは生活の知恵、 家族への思いやりかもしれない。 

 いつものトビ職人がきた。 いつもの大工がきた。 いつもの左官がきた。 職人は独りで飲むことのほうが多い。 隣り合う客とは数十年も見慣れた顔だが、 たがいに名まえなど知らない。 兄さんとか、 社長とか、 旦那とか、 風采で決めて呼び合う。 職種に関係なく会話を交わす。 
 アーケード商店街の店舗が閉まれば、 ごく自然に店員がやってくる。 客層が時間とともに入れ替わってくる。 それでいて常連の顔ばかり。 

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