【017】 ママと一緒
 ふだん私、 いつも鍵っ子なの。 でもね、 土曜の午後は特別な日なの。 おもちゃ工場で働くママが、 
「お昼は、 外で、 なにか食べましょ」
 と自宅に帰ってきてくれるの。 だから、 楽しいの。 玄関で靴を履いて待っているの。 でもね。 迷ってしまうの。 なに食べようかな、 と。 
 表通りで友だちに会うと、 自慢できるの。 
「きょうはママと一緒なんだ。 お昼を食べるんだ」
 みんなに教えてあげるの。 こうしてママと手をつないでいるところも、 見せてあげるの。 
「早く決めてね。 時間がないんだからね」
 ママの口癖なの。 いつも急かすの。 
「スパゲティがいいかな? ハンバーグが良いかな?」
「決まった?」
「ううん。 まだ」
 きのうから、 ずっと考えているんだけど、 決まらないの。 

「決まった? お昼休みは1時間しかないんだからね」
「まだ」
「だったら、 ママの好きなものにするからね」
「じゃあ、 スパゲティだ」
「外れ。 辛いからいラーメンよ」
「やだ。 そんなのは」
 ママの横顔を見たら、 ウソだとすぐにわかった。 

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