【027】 幾何学的な飾り
  下町にも科学の進歩が押し寄せてくる。 ふたつの新と旧の橋が重なり合あう。 角度によっては、 複数の斜線が、 放射状に織り成す。 また、 縦、 横の直線となる。 鉄と鉄がともに造形を語りあっているかのように。 

  高速道路のハープ橋ができたころは、 下町に不似合いな造形の構築物が生まれたものだと思った。 違和感のある風景だった。 不快感すらあった。 

  歳月とは不思議なものだ。 ハープ橋は下町のなかにうまく溶け込み、 実に上手に調和してきた。 取り立てて、 新たな造形が加わったわけでもない。 もはや下町の情緒の一つとしてしっかり認知されているのだ。 それは目に優しく、 幾何学的な美の飾りだ。 

  太陽が雲間から下界の造形をのぞき見ている。 きっと街の飾りだと思って眺めているのだろう。 そこに、 赤い車が色合いを添えていた。 

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