【082】 花    屋

  けさも早朝に市場から彩り豊かな花を仕入れてきた。 朝10時の開店準備で、 最も忙しい。 それでも、 きょうはどんな客が来るのだろうか、 と気になる。 
  人生の幸福でも、 不幸でも、 花だけはつきものだから。 毎日いろいろな買いにきてくれる。 
「恋人にプレゼントの花は何がいいかな?」
  若い男性が相談してくれたならば、 きょうならば、 ローズマリーのバラを勧めてあげよう。 
  夫婦仲のよい夫が、 {愛妻の誕生祝に花を贈るんだ」といったら、 新婚時代のの思い出の花を選ぶかもしれない。 差し出がましい、 花のお勧めなどは止めよう。 商売には控えめも大切だし。 
 

「玄関に一輪挿しの花を買いたいの。 週に一度、 一本だけで悪いわね」
  路地裏の40代の女性がやってくる日だ。 彼女は香りのよい花が好きだという。 お香代わりなのかしら。 きっと家のなかは整然と片付いるのだと思うわ。 
 
 
 橋向こうの町から、 葬式の生花の予約が入っている。 大輪の菊とか、 黒いリボンとかを手にすると、 私までが悲しくなってしまう。 もし生前の好きな花がわかれば、 生花に加えられてあげられるのに。 そんなことは聞けるはずがないし。 
 

 「あしたね、 子ども会のピアノ発表があるの」
  母親がニコニコ顔で花束を予約してくれた。 赤いリボンで、 明るく派手に束ねてあげよう。 
 「あしたね、 子ども会のピアノ発表があるの」
  母親がニコニコ顔で花束を予約してくれた。 赤いリボンで、 明るく派手に束ねてあげよう。 
 

 「入院見舞いの花はなにが良いかな? 鉢のほうが長持ちしそうだな」
 「私たちが上司の退院を長引かせたいようで、 鉢花はよくないわよ」
 「俺らは、 それを期待しているんじゃないか」
 「悪いこといっているわ。 鉢はダメよ。 すぐ花が散ったり、 萎んだりすると、 これも患者の気持ちも萎えるしね。 難しいわね」
  会社員づとめの男女が話している。 
  ここは口を挟まないでおこう。 相談を持ちかけられるまで。 
 

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