【083】 祭 り の 準 備

  槌音が早朝からひびいていた。 とび職がやぐらを組み立てていた。 
  下町の秋祭りがきょうから始まる。  

  槌音で呼ばれたかのように、 町会の世話役が集まってきた。 「きょう、 あしたは天気に恵まれそうだね」という挨拶が交わされた。 各班ごとに散っていく。 それぞれが分担された持ち場で働きはじめた。 
  神社の格納庫からは、 金箔が光る神輿がおごそかに取り出された。 子ども神輿だ。 テントまで運ばれた神輿は、 脚立の上にていねいに置かれた。 
  午後から、 二つの神輿が稚児たちとともに町内の路地をねり歩く。 
  本殿では、 背の高い男性が竹箒を手にして背伸びしながら、 天井や軒下をすす払いしている。 上向きの仕事は体力がいるものだ。 それぞれの顔には汗がにじみ出ている。 
  かれらは一通りの清掃が終わると、 こんどは純白の太いしめ飾りを取り付けはじめた。 すると、 神社全体に威厳が出てきた。
 

  年配女性たちが境内の掃き掃除をはじめた。 神殿の裏手にまで回り、 雑草の刈り込みをする。 だれもが己の心を磨くように、 塵やごみの一つも見逃さない。 さらには掃き清める。 

  やぐらが境内の中央に完成した。 格納庫からはダンボールが運び出された。 『奉納』の提灯の取り付けだ。 電球付のロープが四方に伸ばされていく。 長さが調節された。 
  四方が均一でなければ、 後あとが見苦しい提灯の行列になってしまう。 長老が豊かな経験で取り仕切っていた。 

  午後から主役となる子どもたちが目を輝かせて、 境内にのぞきに来た。
   

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