【089】 縁   日

  わたしの家まで、 太鼓の音が聞こえてきた。 東京音頭の曲が流れている。 わたしの心は躍る。 わたしは神社の秋祭りがとても好きなの。
  待ちに待った祭りの日だから、 鳥居まで駆けていった。 境内まで、 テントの屋台がならぶ。 どの店も裸電球がつよく点る。 電球の明かりで、 食べ物がみな光って見える。
 

  母さんから小遣いをもらってきた。 今月のお小遣いもある。 屋台を一軒ずつみて回った。 なにを買おうかと迷ってしまう。 隣の子が持っている綿菓子がいいな、 と思う。 でも、 決められない。 
 

『わたしって、 心がとても迷いやいの』
  もう一度、 鳥居から見て回ることに決めた。 
  金魚すくいは楽しそう。 去年は二匹の金魚を持ち帰ったら、 父さんが水槽を買ってくれた。 でも、 すぐ死んでしまった。 可哀そうだったから、 今年は止める。 

 屋台のお兄さんは、 「さあ、 らっしゃい」と声をかける。 お好み焼きも、 イカ焼きもいい匂い。 食べたくなるけど、 夕飯を食べてきたから、 止める。 
  小学校の同級の男子から「何も買ってないのか。 貯金するのか」とからかわれた。 恥ずかしかった。 「そんなことないわよ」と言い返した。 一番人だかりがしている、 かき氷に決めた。 
 

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