【046】 草すべり
  4歳と2歳の姉妹が草土手で遊んでいた。 きょうは澄みきった青空だ。 太陽がいっぱいにそそぐ。 土手の草が陽光でつややかに輝く。 春の匂いを発散させている。 伸びる草は育つ子どもたちにエネルギーを与えている。

  幼い姉妹には、 草の弾力が心地好いのだろう、 走っては転ぶ。 姉が立ち上がっては転ぶ。 転んでもケガなどしない。 また、 立ち上がっては転ぶ。 妹も真似て笑いながら転ぶ。 戯れの幼子の明るい声がひびく。 数十年前にさかのぼっても、 同じ遊びがあった。

  土手下では両親が優しい目で、 わが娘を見守る。 こんどは草すべりだ。 戯れる楽しげな笑いは止まない。 草木も子どもたちもまぶしく輝く。

  土手道では自転車に乗る人、 散策の人、 それぞれが気にも留めず行きかう。 いつもの下町の顔だから、 ごく自然に受け入れている。 老人にも子ども時代があった。 

  子どもは草すべりがすきだと知っている。 だから、 歳月が経っても、 下町の日常の風景はいつもどおりだ。 今年もいつもどおり、 下町の春は土手からやってきた。 

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