【092】 繁 華 街
                                                                      

  下町といえば、 路地裏が似合う。 住民は古い生活スタイルを持っている。 
  住民が時おりJR駅前にむかう。 ある人は表通りからバスに乗ったり、 ある者は狭い生活路の奥から自転車のペダルを漕いだり、 近くの住民は徒歩で総武線のガード下をくぐったりして、 駅前に出る。 そこには下町の住民好みの、 ふだん着でいける繁華街があった。 

  戦後の闇市から発展した区画のない、 雑然とした場所だ。 街全体に泥臭い面影が残る。 酔客が目立つ横丁。 ひょろひょろ高い雑居ビル群と多段に並ぶ看板。 昔ながらのアーケード商店街。 そのなかに中小のオフィスが点在する。
   

  路地裏に回れば、 呼び込みの声。 いかがわしいネオンの遊興の店が並ぶ。 不統一の混然とした繁華街だ。 
  昭和半ばまでは映画館、 パチンコ店、 飲食、 遊興の歓楽地として、 ずいぶん栄えたものだ。 東京都民の憩いの場ともいわれた。 国電を乗り継いで、 遠くから遊びにくる人出もあった。 
 

  いまとなれば見渡しても、 高層のシンボル・ビルはない。 最新の流行を感じさせる店舗も、 高級デパートもない。 若者が闊歩する、 ファッショナブルな歩道もない。 いつしか流行に遅れた町となった。
  前々から叫ばれていた、 駅前再開発すら進まない。 旧態の古い町で、 老舗というべきか、 昔ながらの店が軒を連ねる。 だからこそ、 下町の人が愛する古いスタイルの繁華街になれたのだ。
    

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